あなたはザルを被ったことがありますか?
そう。ザル。
茹でたお蕎麦の湯切りに使う、あのザルです。
私はあります。
決してふざけてというわけではなく。
"ひとまず言われた通りにやってみる"
これに従った。それだけ。
いつ、どんな状況で、何のために?
話はだいぶ遡ります。
あれはたしか五反田のゆうぽうとホールでの舞台リハーサル、おそらく私は中学生。
ひと踊りして、楽屋に戻ろうと階段を降りると、待合スペースのソファに阿佐美先生のお姿がありました。
ご挨拶すると、先生は、
れいちゃん、また背が伸びたんじゃない? あなたザルを被らなきゃならないわね。
と、おっしゃいました。
??? ザルですか?
そうよ。
ザルを被ると背が伸びなくなるのよ。
そうなんですか!
被ってみます!
有名な言い伝えなのか、それとも、まさか科学的根拠のあるものなのだろうか............
帰ってとりあえず母に話すと、なんの躊躇いもなく、それはきっと言い伝えよね、いったいどんなザルがいいのかしら、プラスチックは現代のものだからナシでしょ、竹か金物かそのあたりよね、と、こちらの想像の斜め上を行く、被ることが前提のリアクション。
竹のザルを被りました。
被ってから気づきました。
これはいつまで被っていれば.........
その後も、友人、祖父母、先生と、いろんな人に話してまわりましたが、なにそれそんなの聞いたことない、との反応ばかり、知る人は誰もいませんでした。
まだスマホでサクッとググれなかった時代。
それ以来、あのザルの話の由来は何だったのだろうと、まるで魚の小骨のように心のどこかに引っかかったまま、私の身長はぐんぐん伸びていきました。
中高で、18センチも。
そして先日
「白鳥の湖」が終わり、気づけば10月。
もういくらなんでも麦わら帽は被らないな、と、冬物の帽子と入れ替えようとして、思い出しました。
あ、ザル。
スマホでサクッとググれる時代。
調べました。
ありました。

なるほど、元々はお行儀の悪い子どもを戒めるための言い伝えだったのですね。
とはいえ私は思うのです。
もしあのとき竹ザルを被ってみていなかったら。
2メートルのおばあちゃんになっていただろう、と。
